1)気管支喘息(ぜんそく)
発作性(突然)に息がゼェーゼェーして息苦しくなり、咳や痰(たん)も出てくる病気です。最近では、ゼェーゼェーいわずに咳だけが長引くタイプ(咳喘息)も増えてきました。小児期に発病するアトピー型と中高年から発病する感染型がありますが、いずれも気管支のアレルギー性炎症により気管支壁の筋肉が収縮したり、気管支壁がむくんだり、痰分泌が増えることで、気管支の内腔が細く、狭くなって喘息発作が起こります。治療は、厚生労働省研究班の喘息治療ガイドラインで勧められている吸入ステロイドを正しく使用すれば、90%の患者さまは良くなります。また、薬物治療だけでなくガイドラインで勧められている抗原回避のための環境整備についても、当院では積極的にご指導させていただきます。
当院では、ガイドラインに沿った標準治療を行っても改善しないような重症の患者さまの治療にも力を入れていきます。
2)蜂アレルギー、食物依存性運動誘発アナフィラキシーなど アレルギー反応の中でも最も強い反応が急激に出現する、最も危険な状態 です。蜂アレルギーの方が蜂に刺されたり、ある特定の食べ物を食べた直
後に運動した場合、全身の皮膚が赤くかゆくなってきて、のどが狭くなって息ができなくなってきます。喘息発作も併発します。すぐに救急車をよんで病院で治療しなければなりません。救急車も間に合わないこともあるので、アナフィラキシー反応の特効薬エピネフリンの携帯用自己注射薬(ペン型のエピネフリン注射剤、商品名エピペン)を常備していただくこともあります。このような状態の経験のある方は、一度当院にご相談下さい。詳細なアレルギー検査を行って、原因物質を明らかにし、予防法をごいっしょに考えていきます。
3)アトピー性皮膚炎
かゆみのある発疹が、悪くなったり良くなったりを繰り返す皮膚病です。多くはアトピー素因といって、ぜんそくや花粉症などのアレルギーの家族歴(血縁の家族にその病気があること)があります。 アトピー性皮膚炎は、皮膚のバリア機能異常(外界からの刺激から皮膚の中を守る働きの異常すなわち皮膚の乾燥と易刺激性)とアレルギー反応によって起こります。したがって、治療は皮膚のお手入れ(スキンケア)とアレルギーの予防ということになります。スキンケアは以下の方法が勧められています。
スキンケアの要点 1.
皮膚の清潔 毎日の入浴、シャワー ●汗や汚れは速やかにおとす、しかし、強くこすらない ●石鹸・シャンプーを使用するときは洗浄力の強いものは避ける ●石鹸・シャンプーは残らないように十分にすすぐ ●痒みを生じるほどの高い温度の湯は避ける ●入浴後にほてりを感じさせる沐浴剤・入浴剤は避ける ●患者あるいは保護者には皮膚の状態に応じた洗い方を指導する ●入浴後には、必要に応じて適切な外用剤を塗布する など 2.
皮膚の保湿 保湿剤 ●保湿剤は皮膚の乾燥防止に有用である ●入浴・シャワー後は必要に応じて保湿剤を塗布する ●患者ごとに使用感のよい保湿剤を選択する ●軽微な皮膚炎は保湿剤のみで改善することがあるなど など 3.
その他 ●室内を清潔にし、適温・適湿を保つ ●新しい肌着は使用前に水洗いする ●洗剤はできれば界面活性剤の含有量の少ないものを使用する ●爪を短く切り、なるべく掻かないようにする(手袋や包帯による保護が有用なことがある)など
アレルギーについては、原因物質をつきとめてそれを避けること、皮膚にくっつかないようにすることです。原因が食物にある場合はその食物を食べることを控えなければなりません。 日本人のアレルギーの原因の70%以上は家のほこり(ハウスダスト家塵)とその主成分であるダニといわれています。
家塵中ダニの除去を目的とした室内環境改善のための注意 (喘息予防・管理ガイドライン2006、P74) @床の掃除:床の掃除機かけはできるだけ毎日実行することが望ましいが、少なくとも、3日に一回20秒/平方メートルの時間をかけて実行することが望ましい。 A畳床の掃除:畳床のダニと寝具は相互汚染があるので、特に掃除機かけには注意が必要である。3日に一回20秒/平方メートルの時間をかけて実行する必要がある。 B床以外の清掃:電気の傘、タンスの天板なども年に一回は徹底した拭き掃除をすることが望ましい。 C寝具類の管理:寝具類の管理は喘息発作を予防する上で特に大切である。1週間に一回は20秒/平方メートルの時間をかけて、シーツを外して寝具両面に直接に掃除機をかける必要がある。 D布団カバー、シーツの使用:こまめなカバー替え、シーツ替えをすることが望ましい。ダニの通過できない高密度繊維のカバー、シーツはより有効である。 E大掃除の提唱:室内環境中のダニ数は、管理の行き届かない部分での大増殖が認められるので、年に一回は大掃除の必要がある。
4)仮性アレルゲンとは 食べ物の中にはヒスタミンなどかゆみのもとになるような成分を含んでいるものがあります。このような痒み誘発成分にはヒスタミンの他にチラミンやセロトニンと呼ばれるものもあります。ビールで身体にブツブツができる、たけのこのあく抜きが不充分でノドがイガイガする、トマトやしょうゆが皮膚について赤くなるなどご経験がある方もおられるでしょう。このように、食品にヒスタミンなどが含まれていて、アレルギーと同じ症状が起きるのを仮性アレルギーといいます。この反応を起こすものが仮性アレルゲンなのです。 ヒスタミンの含有量の多い食品はチーズが代表的です。パルメザンチーズの類はヒスタミン含有量が非常に多いことが分かっています。 このように以下の食品はかゆみを起こすことがありますので、大量摂取を避けるなどして気をつけましょう。
発酵または醸造食品 パルメザンチーズ、ワイン、ビール、みそ、しょうゆ 野菜トマト、ほうれん草、なす、やまいも、エノキダケ、まったけ、タケノコ 肉類 牛肉、豚肉魚介類さば、マグロ、イワシ 果物 バナナ、パイナップル、キウイ、いちご種実ピーナツ、アーモンド その他 卵白、チョコレート サラミソーセージ
ヒスタミンを含む食品・・・・ほうれん草、なす、トマト、牛肉、鶏肉、えのきだけなど。 アセチルコリンを含む食品・・・トマト、ナス、タケノコ、ピーナッツ(落花生)、山芋、くわい、里芋、そば、まつたけ、など。 セロトニンを含む食品・・・ トマト、バナナ、キウイ、パイナップルなど。 ノイリンを含む食品・・・ 冷蔵のたら、さんま、塩しゃけなど。 トリメチールアミンオキサイドを含む食品・・・かれい、たら、いか、たこ、 あさり、海老など。
5)アレルギーを起こしにくい食生活 1. 緑黄色野菜、海草類など食物繊維が豊富でビタミン、必須ミネラルに富む食品を十分にとりましょう。肉類は控えめにしましょう。和食を基本すると良いでしょう。 2. 脂肪と砂糖の摂取を控えめにしましょう。フライもの(揚げ物)、ファーストフード、チョコレート、ケーキ、ポテトチップス類、甘い缶ジュース、コーラを避けましょう。 果物は良いのですが、摂りすぎはいけません。果物。、アルコール、みりんも腸内のカビの発育を助けてアレルギーを起こします。 3. リノール酸(ベニバナ油、ゴマ油、コーン油など食用油、マーガリン、マヨネーズ、ドレッシング)の多い油を避けて、αーリノレン酸の多い油(シソ油、エゴマ油)にしましょう。エイコサペンタエン酸EPAあるいはドコサヘキサエン酸を含む青い背の魚をとりましょう(ただしサバなどにアレルギーのある場合は禁物です)
6)口腔アレルギー症候群 ある食べ物を食べた直後に唇や舌、口の中の違和感とかゆみが出現し、同時にくしゃみ、鼻水、目のかゆみなどの花粉症のような症状とのどが詰まるような症状(咽喉頭閉塞感)がでてくるアレルギー病の一つです。花粉症との関係が深く、スギ花粉症では7〜16%に、北海道に多いシラカンバの花粉症の方では約20%の方に、この口腔アレルギー症候群の合併がみられます。また原因になる食物(果物、野菜が主です)にも特徴があり、スギ花粉症の方ではトマト、シラカンバ花粉症では、リンゴ、モモ、サクランボ、ナシ、イチゴ、ウメ、セロリ、ニンジン、ジャガイモ、トマト、キウィが挙げられます。口腔アレルギー症候群の患者さまはこれらの食物の摂取に注意が必要ですが、加熱したもの(缶詰、加工ジュース)であれば大丈夫です。もし間違って生のものを食べてしまったら、出来るだけ早く抗アレルギー薬や抗ヒスタミン薬を飲むようにします。
7)ラテックスアレルギー(ラテックス・フルーツ症候群)
ラテックスとは、天然のゴムの木の樹液のことです。天然ゴムから作られた製品(ゴム手袋やコンドームなど)をつけると、接触した皮膚や粘膜にかゆみ、発赤、膨疹(じんましん)、水疱(みずぶくれ)ができます。じんましんが全身に広がることもあり、上に述べたアナフィラキシーという命に関わるような全身アレルギー反応に至ることもあります。 ゴム製品だけでなく、ラテックスに強い交叉反応性のあるバナナ、アボガド、キウィ、クリ、トマト、ポテトを食べてもアレルギー症状がでます。そのためラテックス・フルーツ症候群とも呼ばれます。 中等度の交叉反応性がある食物としてパパイア、パッションフルーツ、イチジク、マンゴ、パイナップル、メロン、ピーチ、ネクタリン、リンゴ、ニンジン、ホウレンソウがあります。 軽度の交叉反応性があるものに小麦、ライ麦、セロリ、プラム、チェリー、アプリコット、ブドウ、ヘーゼルナッツ、アーモンド、イチゴ、クルミ、ピーナッツ、ソバ、ピーマン、トウモロコシがあります。 治療としては、予防が一番で、ラテックスの成分を含まないアレルギー用のゴム手袋を使用すること、原因になる食物摂取を避けることです。
8)アレルギーの診療についてのよくあるご質問
質問: 8歳の男児です。食物依存性運動誘発性アナフィラキシーの疑いがあるとかかりつけの小児科で言われました。そちらのクリニックではいろいろな検査が可能とお聞きしました。ぜひ検査を受け,原因食物などを知りたいのですが,8歳でも診ていただけるでしょうか?よろしくお願いいたします。
お答え: 食物依存症運動誘発アナフィラキシーとの診断を受けられたのですね。場合によっては生命に関わる病気ですので、ご心配お察しします。アレルギーの検査については、後述しますが、検査より先にすべきことは、お子さんと学校の担任の先生、養護の先生に、食べてはいけない食品を知らせておくこと、もしその食物を食べてしまってもすぐに運動しないこと、動かないこと、を徹底してお話しして理解してもらうことです。そして、アナフィラキシーが起こってしまったときの緊急時のために、エピペンを用意して常に携行するか、学校用および家庭用に常備しておくことです。学校の先生にもエピペンの使い方について知っておいてもらう必要があります。エピペンの使い方を説明したDVDがありますし、練習用のエピペンもありますので、学校の先生にも実際に注射する練習をしておいてもらいましょう。
9)アレルギーの検査について(上記のご質問に対する答えの続き)
お答え: 次にアレルギーの検査についてお答えします。
当院はアレルギー専門クリニックですので、「アレルギーの血液検査をして欲しい」といって受診される患者さまが大勢いらっしゃいます。そのような時、私は必ず、「アレルギーは血液検査ではわかりません」とお答えしています。他の病院・診療所でアレルギーの血液検査をしてもらったという方がおられますが、それは、血液中の非特異的IgE抗体、そしてハウスダスト、ダニ、種々の食物抗原、花粉抗原、動物抗原に対する特異的IgEのことを指しておられるのだと思います。しかし、アレルギーは血液中のIgE抗体だけでなく、リンパ球がその抗原を覚えていてその抗原が体内に入ったときに反応してアレルギー反応が起きるメカニズムも存在します。血液中を流れているIgE抗体を測定しただけでは、アレルギーの検査にはなりません。食物アレルギーの場合に多いのですが、ある食物抗原に対する特異的IgE抗体が高値でもその食物を食べても何ともないケースや、逆に特異的IgE抗体が陰性でもその食物を食べるとひどいアレルギー反応を起こすケースもあります。すなわちアレルギーの血液検査の結果と臨床症状は、一対一に対応しないのです。そのような不確実な検査は当院では行いません。アレルギーの血液検査は、保険点数が高いので、病院や診療所は検査をすればするほど儲かるので、クリニックによっては、半年ごと、あるいは3ヶ月ごとに血液検査を行なうところもあるようですが、その結果に従って薬を増やす、減らすとか、その食品を食べても良い、というように診療や生活指導に役に立っているとは思われません。
それでは「アレルギーの検査」はどうするのですか?と疑問に感じられることと思います。その答えは、「日常の生活の詳細な観察です」、とお答えしています。お子さんなら、親御さんにアレルギー育児ノートをつけていただきます。ノートのページの中央に線をひき、左欄に食生活、動物との接触、ほこりっぽい押入れの中で遊んだとか、詳しく記録し、右欄に、発疹や咳、喘鳴などアレルギー症状の増悪、軽快を記録します。あとから読んでみて、アレルギー症状の原因と思われる食物、その他の要因を推定していくのです。そして、原因となるものがわかったら徹底的にそれを避けていく、それがアレルギーの基本的な治療になります。
「アレルギーの血液検査は当院では行いません」、というと怒って帰ってしまわれる患者さまや親御さまもいらっしゃいますが、正しいアレルギーの診療は上記のような手順と信じて、当院ではこれを頑固に続けております。この説明をよく理解してくださった患者さまは、キチンと通院し上手にアレルギーをコントロールしておられます。
以上、長くなりましたが、当院でのアレルギーの診療の基本方針についてご説明いたしました。それでもよろしければどうぞ当院を受診して下さい。以下作成中
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